2曲目『愛に似てる』
今回は、頑なに愛だと認めないひねくれソング『愛に似てる』の歌詞を深読みしていきたいと思います。
愛に似てる
詞 AZUKI七
“やわらかな日差しに笑い合うこと
大袈裟な夢をみてたわけじゃない”
そこまで高望みはしてませんアピールでこの曲は始まります。
この人物は、「何気ない景色にも共に小さく感動し、ふふっと微笑み合える関係があればそれでいい」という謙虚さを持っています。
いろいろな経験を経て、過度に何かを期待しないスタンスへと辿り着いたのでしょう。
しかし、大袈裟な夢じゃないとは言いますが、いつの世も尽きない男女間のゴタゴタ話や高い離婚率にも現れているように、「平穏な関係さえあればいい」というその夢すら、現実にはかなり難易度の高いものです。
そこそこ大袈裟なのです。
恋に恋する第1ステージからは卒業しているものの、まだ多少夢見がちな印象を受けるので、20代後半〜30代あたりの人物を想像しました。
“失うまま生きるだけなら
心など持たずに産まれた筈でしょう”
「人生がただ失い続けていくだけの辛いものなら、感情などいらないだろう」と言っています。
たしかに、生きること=クソだと決まっているのなら、感情という余計な機能を搭載せず、ただ虫のように本能のみに従って動き、生涯を閉じれば良いのです。
「そうではない(=感情を持たされて生まれた)ということは、楽しいことも幸せなこともあると思っていいんでしょう?いいよね?」ということです。
こんな発言が出てくる時点で、この人物は人生に対して悲観的な思いを抱いているようです。
喪失体験の豊富さがくっきりと滲み出ています。
“愛に似てる時よ終わらないで
その切なさに騙されていたい
降り出す雪 身を守るように二人
そっと肩寄せて歩いた”
季節は冬のようです。
付き合ってるっぽい相手も登場しました。
雪が降る寒い日に肩を寄せて二人で歩くという、冬のリア充カップルを絵に描いたようなシチュエーションから察するに、二人の関係はなかなか良好なのではないかと思われます。
しかしこの人物は、そんなひとときを“愛に似てる時”、“騙されていたい”と、一歩引いたような言い方で表現します。
これまでのトラウマから、いつか関係が終わってしまうことばかりに気を取られ、今の幸せを素直に受け止めようとしない厄介な思考回路を披露しています。
愛と認めて幸せに浸ってしまうと、再び失ったときの反動がドデカいからです。
一種の自己防衛反応と言えます。
“‘つながり'はいつしか
少しもつれて‘からまって'ゆくけど
混乱に似てる関係の中で見上げた
今日の空遠く澄んでるね”
ここでも「人の繋がりなんて、そのうち縺れて絡まっていくものだ」と、悲観的なスタンスを徹底して保ちます。
“混乱に似た関係”とネガティブに表現していますが、二人で一緒に澄んだ空を見上げているのです。
勝手に思い込んでいるだけで、そこまで悪い関係ではない気がします。
“澄んでるね”と語りかける口調からも、共に綺麗な景色を共有しているニュアンスが感じられます。
これは冒頭の「やわらかな日差しに笑い合うこと」という夢に近く、望みは概ね達成されていると言えます。
つまり、この人物はそれなりに満たされているはずなのに、どこかウジウジとした態度を貫く面倒臭いヤツなのです。
“消えてゆくものだけが
放ちゆく輝きだけを求めたの?
気付いた時にはまた
絆に似た縺れた愛に”
ここへ来て、ホントは“消えてゆくものが放つ輝き”(=刹那的な恋愛)を求めていたんじゃないの?と自問自答をし始めました。
今の幸せでは満たされていない自分に気づいたのでしょう。
冒頭では「平穏な関係さえあればいい」と悟ったような態度を見せていましたが、結局は本心でなかったのかもしれません。
愛を求めながらも、「どうせそんなモンはない」と諦めているため、安定した幸せに居心地の悪さを感じるのです。
それで自分から縺れさせ、破滅し、悲しみに酔いつつもどこかそんな自分にホッとする。
“気づいた時にはまた”という描写からも、そんな恋愛を繰り返してきたことが伺えます。
悲劇のヒロイン気質、何ともかったるい人物像が見えてきました。
“愛に似てる何かを集めても
君に触れるのが何故か怖くて
ちょっと離れて背中を見ていたら
風が二人の間を抜けた”
寄り添って歩いていたのに、わざわざ自分から離れるという激烈クソムーブをカマしています。
脅威のビビりっぷり、ややこしいことこの上ないド級のこじらせちゃんです。
どうしても幸せを避けてしまうのか、とにかく幸せ恐怖症の末期症状がふんだんに現れています。
関係が縺れる原因はお前です。
“愛に似た日々は遠くなくしたものを探しゆくから
きっと疲れた心は闇の奥
わずかな光辿るでしょう
こんな冷たい日の夜には”
“遠くなくしたもの”とは、「幸せを恐れるようになる前の素直な心」を指しているのかもしれません。
一つ前のブロックで自分から関係を壊すようなマネをしたと思いきや、“闇の奥わずかな光辿るでしょう”とまさかのポジティブ発言が飛び出しました。
この期に及んでまだ“愛に似た日々”と言い張るくせに、今回は「これまでの経験で疲れた心を癒やし、幸せを享受できる自分を取り戻せるかも」と、一応希望は持っているようです。
しかし、ひねくれ散らかした思考回路が治っていないことから察するに、かなり無理があると思われます。
相手に愛想を尽かされて終わるか、結局自分から破滅へと運んでしまう未来が容易に想像できます。
まとめると、「安定した恋愛を望みながらも、手に入れたら入れたで居心地の悪さを感じたり、失う恐怖にビビってわざと離れてしまったり、とにかく面倒臭い幸せ恐怖症患者のウジウジソング」ということになります。
・ひとこと感想
GARNET CROW名物のバラードだなあと思います。らしさが出ています。
サビの覚えやすいメロディーと、全体を通して人間臭い歌詞が好きです。
(※本記事の内容は全て個人的な解釈によるものです)